古代エジプト展【最終回】永遠の眠りと再生の祈り ― 本物のミイラと棺

人生エッセイ(芸術・文化・日常・生き方)

はじめに

みなさま、こんにちは(^^♪

福岡市美術館のエントランス壁面に掲げられた大きな展覧会バナー(写真1)を見上げながら、この5回にわたる旅もいよいよ最終回を迎えました。

最終回では、古代エジプト美術を彩った黄金の装身具や小舟の副葬品から、いよいよ本展の核心である本物のミイラと棺、そして死者を再生へと導く祈りの言葉に触れていきます。

三千年の謎を掘り起こす旅の締めくくりを、どうぞ最後までお付き合いください。

掘り起こされた三千年の謎、その入口で

会場の壁に大きく掲げられたポスターには、「掘り起こせ、三千年の謎」の文字とともに、色鮮やかな人型棺が描かれていました(写真1)。

この5回のシリーズを通じて出会ってきた数々の品々を思い返しながら、改めてこの副題の重みを噛みしめました。

王侯を彩った黄金と宝石

展示ケースには、トルコ石やカーネリアンをあしらった美しい首飾りや、金の耳飾り、そしてベス神をかたどったペンダントなど、豪華な装身具の数々が並んでいました(写真2)。

色石のビーズを幾重にも連ねた広襟飾り(ウセク)は、身分の高い人々の胸元を彩ったものだといいます。

三千年前の職人たちの手による繊細な細工は、今なお色褪せることのない輝きを放っていました。

ナイルを渡る小さな舟

帆船の模型」(写真3)は、漕ぎ手たちが整然と並んで櫂を操る姿まで丁寧に再現された副葬品でした。

古代エジプト人にとって舟は死後の世界へも欠かせない移動手段と考えられ、来世でもナイル川を渡り太陽神ラーの旅に伴うことを願ってこうした模型が墓に納められたのだといいます。

小さな漕ぎ手たちの表情にまで魂が宿っているようで、思わず見入ってしまいました。

イシスとオシリス、再生の物語

イシス女神の小像」と「オシリス神の小像」(写真4)の前では、しばらく足を止めました。

偉大な呪術者であり守護者としても崇拝されたイシス女神は、夫であるオシリスがセトの手にかかりナイル川に投げ捨てられた遺体を取り戻し、その卓越した力で再生させたと伝えられています。

イシスが育てたオシリスの息子ホルスは、後に叔父セトとの戦いに勝利し、エジプトの王となりました。

死と再生、そして王権継承という古代エジプト神話の核心が、この二体の小さな像に凝縮されているようでした。

隣のケースには、「ネフテュス女神像」と、泣き女たちの姿を刻んだ「泣き女のレリーフ」(写真5)も展示されていました。

イシス女神とネフテュス女神の姉妹がオシリスの遺体に寄り添って嘆き悲しんだという神話は、後の葬送儀礼にも深く反映され、この泣き女のレリーフに刻まれた悲しみのポーズは、まさに「二人のイシスとネフテュス」を演じる儀礼的な嘆きの姿を伝えているのだといいます。

色鮮やかな棺、その中で眠る人

赤い顔立ちで表現された女性の人型棺(写真6)は、色彩の鮮やかさが今なお残る美しい一体でした。

額から胸元にかけて描かれた翼を広げた守護神の姿や、その下に連なるヒエログリフの帯からは、この棺の持ち主が丁重な弔いを受けたことが伝わってきます。

内側と外側、二重になった棺(写真7)も展示されていました。エジプトでは身分の高い人物ほど、幾重にも重ねた棺で幾重にも守られたといいます。

外側の棺には全身を覆う彩色画が施され、内側の棺にもまた別の意匠が描かれており、幾重もの祈りが死者を包み込んでいたことが分かります。

本物のミイラと向き合う

そしてこの日、もっとも心を揺さぶられたのが、実際に包帯で包まれたミイラそのものでした(写真8)。

顔の部分だけが開かれた小さな窓からは、三千年の眠りについた顔の輪郭がうっすらと浮かび上がっていました。

写真や解説文だけでは決して伝わらない、確かにここに人が生きていたのだという重み。言葉を失うほどの静けさの中で、しばらくその場を動くことができませんでした。

冥界の神々のレリーフ」(写真9)には、死者が冥界を旅する中で出会う神々の姿が刻まれていました。

死は終わりではなく、幾多の試練を経て再生へと至る長い旅であるという古代エジプトの死生観が、このレリーフにも色濃く表れています。

パネルに刻まれた女性への祈り

女性の木棺のパネル」(写真10)には、死者が来世で必要とする供物の数々——パン、ビール、卵、サンダルなど——がヒエログリフでびっしりと書き記されていました。

実際にこれらの品を副葬する代わりに、文字と絵で記すことでも同じ効果が得られると信じられていたのだそうです。

目に見える副葬品だけでなく、文字そのものにも力が宿るとする古代エジプト人の信仰の奥深さを、改めて思い知らされました。

響き渡る三千年前の呪文

会場内に流れていた音声が、実は筑波大学の宮川創氏による古代エジプト語『ピラミッド・テキスト』第436スペルの音韻再建だったと知ったのは、この解説パネル(写真11)を読んだ時でした。

汝自身を洗え、しからば汝のカーは自身を洗う」「汝の両側を洗い、汝の両耳を浄める」「水には水があり、水には水の泡沫がある」。

三千年前に唱えられていたであろう言葉が、現代の研究によって甦り、会場に静かに響いていたのだと思うと、鳥肌が立つような感動を覚えました。

彩色鮮やかな棺の数々

会場にはほかにも、黒と金を基調にした美しい仮面部分を持つ棺(写真12)や、鮮やかな朱色と幾何学文様で彩られた樽型の棺(写真13)が並んでいました。

どれ一つとして同じ意匠のものはなく、それぞれの棺に込められた個性や、遺族の祈りの形が偲ばれました。

パピルスの断片や、供物を捧げる場面を描いた図版(写真14)からは、死者を弔う具体的な儀礼の様子を垣間見ることができました。

そして「ワニを異国に配した神」(写真15)と題されたパピルスの図像には、ナイル川の脅威であり恵みでもあったワニを神格化したソベク神が描かれ、水の力を司る神への畏怖と信仰が表現されていました。

光るスカラベに見送られて

展示室の最後には、大きく光るスカラベの意匠が壁に投影され、その下のスクリーンには来場者の姿が幻想的な映像となって流れていました(写真16)。

スカラベ(フンコロガシ)は、太陽を運ぶ神ケプリの化身として、再生と復活の象徴とされていたといいます。

三千年前の死生観の集大成として、この輝くスカラベの光は、展覧会そのものの結びにふさわしいものでした。

湖畔に立ち、来年への想い

会場を後にし、大濠公園の湖畔に出ると、福岡タワーを遠くに望みながら、彫像のシルエットが澄んだ夕空に浮かび上がっていました(写真17)。

そして穏やかな湖面には、無数の水鳥たちが羽を休めていました(写真18)。

思えば私はこれまで、北京の万里の長城で黄河文明の、そしてインドのデリーやジャイプール、アグラで悠久のインダス文明の片鱗に触れてきました。

そして今回、この福岡の地で三千年の時を超えたエジプト文明の息吹に触れ、造形の素晴らしさと、そこに生きた人々の語りかけるような気配に、心が躍る思いをいたしました。

来年はいよいよ、四大文明の一つであるエジプトへ実際に足を運び、この目でピラミッドとナイルの流れを見てみたいと願っております。

全5回にわたりお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

下記からも全体が閲覧いただけますので、興味のあります方はご覧ください。

古代エジプト展【第1回】三千年の扉をひらく ― 福岡市美術館を訪ねて

古代エジプト展【第2回】祈りと権威のかたち ― 福岡市美術館を訪ねて

古代エジプト展【第3回】死者を守る神々 ― 福岡市美術館を訪ねて

古代エジプト展【第4回】神殿と王たちの記憶 ― 福岡市美術館を訪ねて

この福岡の地で出会った三千年の謎の数々が、少しでも皆様の心に残るものとなりましたら幸いです。

ありがとうございました。

See you(^^♪

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