古代エジプト展【第2回】祈りと権威のかたち ―赤ちゃんの誕生 と育児

人生エッセイ(芸術・文化・日常・生き方)

はじめに

みなさま、こんにちは(^^♪

大濠公園のほとりに建つ福岡市美術館へ向かう道を歩きながら、これから対面する三千年前の品々に想いを馳せました(写真1)。

第2回では、赤ちゃんの誕生や母の愛を見守った小さな護符たち、ギザの大ピラミッドを築いたクフ王ゆかりの品、そして古王国から中王国にかけて権勢を誇った王や高官たちの像をご紹介します。

展示室の一隅で出会った、時を超えて語りかけてくるような表情の数々をお楽しみください。

大濠公園を抜けて、三千年前の世界へ

福岡市美術館は大濠公園の緑に包まれるように建っています。「福岡市美術館まで120m」と書かれた案内板を見つけ、日本庭園を横目に歩を進めました(写真1)。

青い空の下、公園を行き交う人々の姿はどこまでも現代的でしたが、この数分後には三千年以上前のエジプトの世界へと迷い込むことになるとは、この時はまだ実感が湧きませんでした。

母と子を見守った小さな護符たち

展示室の一角には、出産や育児にまつわる小さな護符や像が並んでいました(写真2)。

カバの姿をした出産の神タウェレトの護符、生き生きとした姿で表されたカエルの護符、そしてミルクを注ぐための壺。

いずれも手のひらに収まるほどの小さなものですが、そこには母子の無事を願う切実な祈りが込められていたのだといいます。

なかでも心を打たれたのは、幼子に乳を含ませる女性の姿を刻んだ小像でした(写真3)。

母親のまなざしはまっすぐ我が子に注がれ、抱きかかえる腕には確かな力強さが感じられます。

三千年前も今も、母が子を慈しむ心は変わらないのだと、静かに胸が熱くなる瞬間でした。

ピラミッドを背にしたスフィンクスと

展示室の一角には、ギザの大ピラミッドを描いた大きな壁面を背景に、スフィンクスを模したレプリカが置かれ、来場者が記念撮影を楽しめるコーナーになっていました(写真4)。

掘り起こせ、三千年の謎」という展覧会の副題が記されたポスターとともに、ここでも一枚。会場全体を通じてこうした撮影スポットが用意されていたことも、この特別展の楽しみ方の一つでした。

名前を失った王、名を刻まれた王

古王国時代、第3王朝末期から第4王朝初期(紀元前2650〜前2600年頃)に作られたと考えられる「王の頭部」(写真5)は、風化のためか王の名前は失われてしまっているものの、頭部の様式からギザの大ピラミッドを建造させたクフ王への過渡期のものと推察されているそうです。

白冠(上エジプトの王権を象徴する冠)をかぶり、おそらくはセド祭(王位更新祭)の衣装を身にまとっているとの解説に、名もなき石像の奥に確かな王の存在があったことを思わされました。

そのすぐそばには、クフ王その人の名前が刻まれた指輪(写真6)が展示されていました。

ファイアンス製のこの指輪には、大ピラミッドを建造したクフ王の名が誌文に記されており、王自身が身につけた品ではなく、クフ王の2000年後の時代にまで生き続けたその神格への信仰を示す品なのだといいます。

三千年という時間の中でも、偉大な王の名は決して忘れられることがなかったのだと知り、感慨深いものがありました。

隣には、建築家であり彫刻家でもあったイムヘテプの小像も並んでいました。エジプト最古のピラミッドであるサッカラのジェセル王階段ピラミッドを設計したイムヘテプは、後の時代には神格化され、2000年以上にわたって崇拝の対象であり続けたのだそうです。

素朴な取っ手付きの石製容器とともに、権力者だけでなく、優れた知恵を持つ人物もまた永く記憶され続けたことを物語る展示でした。

神々と王、それぞれの威厳

続く展示ケースには、石製の男性神の小像、堂々とした「王像の上半部」、そして「ひざまずくペピ1世の小像」の三体が並んでいました(写真7)。

ピンク色を帯びた花崗岩で作られた王像の上半部は、頭頂部の残欠から縁飾りのついたネメス頭巾をかぶり、王権と神性の象徴であるウラエウス(コブラ)を額に戴いていたと推察されるといいます。

両腕を欠いてもなお伝わってくる堂々とした佇まいに、しばらく見入ってしまいました。

高官たちの静かな威厳

穀物の監督官イルカプタハの座像(写真8)は、古王国時代の官僚制の頂点近くにあった人物の姿を伝えています。

両膝の上に手を重ね、まっすぐ前を見据えるその表情には、職務への静かな自負が感じられました。

高官メチェチィの像(写真9)も見応えのある一体でした。

メチェチィは第5王朝末期から第6王朝初期にかけて王のもとで富を極めた人物とされ、木に彩色された本作は保存状態が良く、腰から下の白い衣をまとう独特の姿は、当時この階級の人物によく見られる特徴なのだといいます。

三千年以上の時を経てなお、木肌に残る彩色の名残が、往時の華やかさを想像させてくれました。

神々への奉納の証

奉納石碑」(写真10)は、第3中間期、シェションク3世頃(紀元前843年頃)に作られたものとされ、王が神々に献上品を捧げる場面が刻まれていました。

当時の宗教的な記念碑がどのようなイメージを伝え、どのように使われていたのかを物語る貴重な一枚です。

三千年前のサンダル

ガラスケースの中には、椰子の繊維を編んで作られたサンダルが一足、静かに展示されていました(写真11)。

エジプトにおけるサンダルの起源はとても古く、素材や編み方から、当時の履物文化の一端をうかがい知ることができます。

装飾を施したサンダルは身分の高い人物の持ち物であったともいわれ、三千年前の人々もまた、履物一つに個性や美意識を込めていたのだと思うと、なんとも親しみが湧いてきました。

彩られた器と護符の神々

赤い壁を背にした展示ケースには、青色で文様が描かれた大きな壺、素朴な人面文様のある小壺、ベス神の顔をかたどった、そしてファイアンス製のバイタコス神像が並んでいました(写真12)。

ベス神は醜悪ながらも家庭や出産を守る親しみ深い神として古代エジプトの人々に愛された存在で、日用品にもその姿がしばしば取り入れられていたといいます。

厳めしい王や高官の像とはまた違った、庶民の暮らしに息づいた信仰の形を感じさせる展示でした。

夕暮れの帰り道

この日も、展示室を出た後には大濠の湖畔で美しい夕焼けに出会うことができました(写真13)。

躍動感あふれるポーズの彫像が、沈みゆく太陽を背にシルエットとなって浮かび上がる光景は、何度見ても心を洗われるような美しさです。

次回は、いよいよ死後の世界と埋葬儀礼にまつわる品々、そしてミイラ文化の核心へと迫ってまいります。どうぞお楽しみに。

下記からも全体が閲覧いただけますので、興味のあります方はご覧ください。

古代エジプト展【第1回】三千年の扉をひらく ― 福岡市美術館を訪ねて

古代エジプト展【第3回】死者を守る神々 ― 福岡市美術館を訪ねて

古代エジプト展【第4回】神殿と王たちの記憶 ― 福岡市美術館を訪ねて

古代エジプト展【最終回】永遠の眠りと再生の祈り ― 福岡市美術館を訪ねて

ありがとうございました。

See you(^^♪

コメント

タイトルとURLをコピーしました